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旅先で、散歩の途中で、そして我が家で 心惹かれた瞬間を切り取った、写真で綴る雑記帳。時空を超えた、私のお気に入りの記録です


by yoshiko-ys
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小川洋子さん 「とにかく散歩いたしましょう」

最近手に取った何度も読み返したくなるエッセイ 「とにかく散歩いたしましょう」。

小川洋子さんの本は何冊か読んだことがありますが、小川さんの感性や想像力、ものの
見方が好きですし、ハッと気づかされることも多く、何度も頷きながら読んでしまいます。
鋭い洞察力や視点をお持ちなのに、文章は謙虚で穏やかで、私の世界へようこそと暖かく
迎えられている気がして、読んでいて心地良いのです。
小川洋子さん 「とにかく散歩いたしましょう」_e0252189_1344037.jpg



このエッセイでは いくつかの章に、キャベツにつく虫、カバ、ゾウ、ハダカデバネズミ など
いろいろな生き物が登場します。 そこには、生き物に対しての慈しみや愛情のみならず、 
深い敬意が感じられる部分が多くちりばめられています。
中でも14歳で亡くなった愛犬ラブラドールのラブの事が一番多く出てきます。
私は動物を飼ってはいないけれど、小川洋子さんが愛犬ラブから人生を学んだとおっしゃって
いることが、心に響きました。

一部を引用します
  「機嫌よく黙る」
  前肢を踏ん張って 何度も失敗しながら、どうにかこうにか立ち上がろうとするラブを
  見ていると、つい涙ぐんでしまう。芦屋川の川べりを走り回ったり、公園の滑り台を
  一緒に滑り降りたり、高速道路をドライブした思い出がよみがえり、もうあんな日々は
  帰ってこないのだ、という思いで胸が苦しくなる。
  ところがどうだろう、ラブは平気だ。少しも気に病む様子などない。足が弱くなっても、
  目が見えなくなっても、餌が腎臓病用になっても、相変わらず機嫌のいいままだ。
(中略)
  犬は何と賢いことに言葉を持っていない。どんなに機嫌がよくてもしゃべらない。犬は
  機嫌よく車座にまじってくる。言葉など喋らなくても、ちゃんと仲間におさまって皆を
  なごませている。
  私がめざすのは、機嫌よく黙っていることである。うすうす感づいてはいたが、理想の
  生き方を示してくれているのは、やはりラブだった。


タイトルになっている「とにかく散歩いたしましょう」のくだりも、どれだけ小川さんがラブに
助けられたか、ラブへの敬意が伝わってきます。

  父が危篤になった時、お葬式を出した時。疲れ切って家に帰ると、ラブがお利口に
  待っていた。ご飯ももらえず、散歩にも行けないままずっと放りだされていたのに、
  文句も言わず、 待ちくたびれた様子も見せず、それどころか「何かあったんですか、
  大丈夫ですか」という目で私を見上げ、しっぽを振ってくれた。
  散歩に出ると、普段と違う暗闇に恐れることもなく、いつも以上に元気に歩いた。
  その時々の不安を私が打ち明けると、じっと耳を傾け「ひとまず心配ごとは脇に置いて、
  とにかく散歩いたしましょう、散歩が一番です」とでも言うかのように、魅力的な匂いの
  隠れた次の茂みを目指して、グイとリートを引っ張った。

小川洋子さん 「とにかく散歩いたしましょう」_e0252189_1361243.jpg


近所にも、老犬に歩調を合わせながら、励ますかのように一緒に散歩している人をよく
見かけるようになりました。幸せな犬だなあ、といつも思いながら見ていましたが、同時に
飼い主もきっと愛犬に向かって ありがとうの気持ちでいっぱいなのだろうなと思います。
by yoshiko-ys | 2014-10-11 12:47 | 雑感